ハーリング(Hering):ニシンとオメガ3脂肪酸
ドイツに住んでいてこれまで気になっていた魚にハーリング(にしん)がある。
ドイツ人にしてはめずらしく生で食べるマティエス、くるくるとロールになって瓶詰めにされているロールモップス、揚げ物だけど缶詰だったりするブラートハーリング。これらがすべて同じ魚だとわかったとき、ドイツ人がこの魚を数少ない海産物として大切にし、工夫しながら食べてきたことがわかった。
ドイツ語でハーリング(へーリング)と呼ばれるニシンは、背の青い魚で北海近郊で採れるもの。魚のなかでも脂肪分が多いが、オメガ3脂肪酸が豊富というメリットがある。オメガ脂肪酸というのは、DHAやEPAといった成分をさし、細胞膜を柔軟にする効果があるようだ。そのため、動脈硬化、心筋梗塞といった循環器系の病気を防ぐとされている。これは、肉食が多くなっている現代人、とくにドイツに住む我々日本人には注目したいところである。
他にもニシンにはビタミンDやビタミンB12といったビタミンに加え、カルシウムや鉄、亜鉛といったミネラルも豊富だ。
ビタミンDは、太陽の光を浴びることで体内で形成されるものだが、日照時間のすくないドイツでは、積極的に食事で補うようにしたい。ビタミンDは骨の形成やカルシウムの吸収を促すため、成長期の子供や、骨粗しょう症のリスクのある女性にはとくに必要とされる。また、カルシウムはイライラなどの神経の興奮を抑える効果もあるため、ココロの健康のためにも努めてとりたい。
ビタミンB12は、造血作用、つまり不足すると貧血(悪性貧血)の恐れがある。また、神経機能にも働きかけるため、これもまた私達の精神状態に影響する。
鉄も造血作用があり貧血を予防し、イライラ、集中力低下、倦怠感などに効果があるとされている。また、うつ病や糖尿病のリスクを抑える効果も近年注目されている。
ニシンのこれらの幅広い栄養素をみると、日照時間が少なく、肉食が多いドイツで、人々のココロとカラダの健康にニシンという魚は大きな貢献をしていることがわかる。
ニシンは5月末から6月あたりが旬で、そのころになるとマティエス・フェストなど催されて街角で気軽に食べることもできる。基本的には、寄生虫をなくす目的で冷凍処理が事前になされることから、生でも安心して食べることができる(マティエスとは若いハーリングのこと)。また、発酵食品としての塩漬けのニシンは、ニシンの栄養素に加え、発酵の効果が加えられ、私達のおなかの健康にもよさそうだ。この食文化をうまく活用していきたい。
ドイツでたのしく食養生 www.shimabe.de 自然療法士 島部亜紀
写真 pixabay